音痴矯正の具体的な方法ですが、イタリアの声楽の黄金期を支えた偉大な声楽教師マンチーニも言っているように「最初の稽古で裏声を訓練する」ということがメインになります。
人間の声は声帯で作られるわけですが、声帯をコントロールしている筋肉には伸展筋と閉鎖筋があります。
ようは声帯を引っ張る筋肉と、閉じる筋肉です。
通常は閉じるほうの閉鎖筋が強い人がほとんどです。なぜなら閉鎖筋のほうが声帯を伸ばす筋肉、伸展筋より数が多く、速筋と言って重量挙げで使うような瞬発力の強い筋肉なので閉鎖筋のほうが力が強いのです。
では伸展筋はというと、男性だと喉仏の下についている輪状甲状筋ただひとつです。そして、この輪状甲状筋は遅筋といってマラソンなどで使うような持久的な筋肉なので、長く働く代わりに強い力を発揮するのが苦手です。

喉の筋肉の構成は大体このようになっています。
ここまで読んでいただくと裏声を鍛えなさいと言う、いにしえの偉大なマエストロの言葉が発声において重要だと言うことがわかってきたのではないでしょうか。
我々の喉は、通常生活において閉じる筋肉を使う頻度が高く、伸ばす筋肉を使うことが少ないのです。
そして、歌うということになると声帯を伸ばしたり縮めたりして、音程を変えるときには伸ばす筋肉、輪状甲状筋をフル回転させますから普段からあまり使われていない輪状甲状筋の使い方が苦手な人が、音痴と呼ばれているということになります。ですからまず、この輪状甲状筋を上手に使えるように訓練することからはじめます。

それにはピュアファルセットと呼ばれる声が出せるように訓練をします。これは聞いてみると、息漏れの裏声と言いますか、機関車の汽笛のようなホーといった音です。この声を出しているときが、一番輪状甲状筋が優勢に働いている状態です。この音が出るようになると歌上手への第一段階を踏み出したことになります。

ではピュアファルセットが出せれば歌は上手に歌えるのかと言えば、これだけでは無理です。
この後に、先に述べた、声帯と閉じる筋肉、閉鎖筋とのバランスをとっていかなければなりません。
ピュアファルセットに閉鎖筋の機能を付加していくと何が起こるかと言うと、それは調整された裏声となり、歌うこと・音程をとることが出来る裏声になるのです。
ここまでくれば、後は閉じる筋肉、閉鎖筋を使う地声をトレーニングします。そのあと今度は、地声に裏声の要素を取り入れるように調整し、マイルドな地声を作ります。
そして、歌える裏声と裏声の要素を取り入れた地声を一本のラインで歌えるように音階練習を行います。まず音階を下り、その次に上ります。これが出来れば簡単なメロディを裏声と地声を使い分けながら歌っていきます。

そして、最後に矯正レベルに応じた曲を選び歌えるように練習していきます。これが音痴矯正の、方法となります。