この度、吃音改善及び克服を目的としたレッスンを始めることに致しました。
私が、この問題に取り組みたいと思ったのは、常日頃から、私が行っている発声法が歌以外の分野でも活用できないかと考えたからです。

また、私自身、社会不安障害や、パニック障害といったメンタルな病気と付き合っていく中で、吃音は、非常に社会不安障害に似ている部分があると感じ、そのような境遇にある方々のお手伝いが少しでも出来ればと考えたからです。
また、知り合いの精神科の先生で、私の考えに賛同して頂き、発声訓練以外の、薬物療法であったり、認知行動療法やカウンセリングなどのバックアップもして頂けることになりましたので、ここで発声訓練を中心とした、
吃音改善を行う運びとなりました。

私は、吃音の経験はありません。
そのような意味では、指導者として相応しいのか疑問の声もあると思います。
しかし、考え方を変えると、より客観的に発声の問題を考えられるとも思いました。
そして、吃音の治療法は確立されておらず、吃音改善したいと願う人達は試行錯誤を重ねている事も知りました。
そのような中、吃音改善の研究をしていく中で、歌を歌っている時は吃音が出ない方が大多数だという、私にはにわかに信じられない事実を知りました。
単純に喉のメカニズムの観点から歌唱を考えると、喋ることよりも、はるかに難しいことなのです。
なぜなのか、科学的には結論が出ていないようですが、吃音の人達は喋る時に、脳から声帯を閉じる信号が送られているという一つの科学的事実を知った時、私には一つの仮説が頭に浮かびました。

少なくとも、歌を音程をはずさずに歌える人の声は、地声のように聞こえても、裏声の要素が混ざっています。
裏声を使うという事は、地声の比重がおのずと減ります。そうすると、喋る時は地声傾向で、更に脳から声帯を閉鎖する信号が来ているために、言葉を喋ろうとする時に、息が詰まって声が出ない。最初の音を二つ目の音に継続できない為、同じ音が続いて出てくるという現象が起こるのではないかと考えたのです。
ただ、この仮説が正しかったとして、私はどのような指導をすれば良いか、具体的な方法論が簡単には考えられませんでした。

私は今まで音痴矯正を中心にレッスンを行ってきましたが、重傷だった音痴を辛抱強く地道な練習で克服した生徒の言葉が私に一つの解決をくれたのです。
それは、レッスンが終わって声について色々と話している時に、「レッスンを始めた頃は低くて重かった自分の声が、ずいぶん軽くなりました。」と話してくれたのです。
その時に私は、レッスンの基本的な部分は同じで良いと思ったのです。

吃音改善の方も、まずは歌の練習から入ればいいのだと思ったのです。
誤解を招くといけませんので、補足しておきますが、歌を歌っていれば直るなどという安易な発想ではありません。

私の音痴矯正またはボイストレーニングのレッスンは、まず第一段階として地声と裏声をしっかりと認識し、はっきりとした分離傾向を認識することから始まります。そして第二段階として、地声と裏声を別々に強化します。そして、最終段階として、地声と裏声の融合を図ります。
この方法は、イタリアの偉大なる声楽教師達が1820年代まで、声を発達させる為に行われてきた方法です。残念ながら、何百年という年月を経て編み出されたこのメソッドは、科学的発声という名の下に、歴史から姿を消してしまったのです。

それを、現在に蘇らせたのが、コロンビア大学の客員教授であった、コーネリウス・L・リード。それを、更に音痴に特化した形で、一つのメソッドを確立したのが、三重大学の弓場徹教授です。

それを、私は吃音改善に特化した形でレッスンを行おうと考えたのです。

それでは、歌うように喋れば吃音は解決するという事になりますが、問題はそう簡単ではありません。歌声を、喋る声に反映させる事は想像以上にテクニカルな問題があり、なおかつ、声帯を閉じる信号が出ているわけですから、一般の方が喋る声に裏声を反映させるのにそれ程苦労がないとしても、吃音の方はかなりの忍耐と努力が必要だと思われます。

しかし、音痴矯正で経験した、地声傾向で重かった声が、裏声傾向の軽い声に変化していったことを考えると、発声に若干ウウェイトをシフトし、基本的には歌う事と並行しながら、声帯の使い方を覚えていけば、吃音改善、そして克服の方向に向かっていくはずです。

吃音改善までの時間についてですが、個人差がかなり出てくる事とは思います。
私たちの発声において最高の位置にある声及び技術は、地声と裏声がロス無く融合し、高音から低音まで一つのラインにつなげられる事です。これが出来るようになると、聞いている人間には、地声と裏声の区別が分からなくなります。
ただ、この声を身に付けるには、相当な努力が必要な事は言うまでもありません。
早くて、5年、10年かかっても不思議ではありません。
しかし、教えていると非常にこの到達度合いは個人差が大きいといえます。

吃音改善も、歌唱を行う場合の、この最高の声を獲得するべくレッスンは進んでいきます。
しかし、まずは、裏声と地声を使い分けて歌える状態になれば、地声もかなり裏声傾向に改善されているはずですから、効果は期待できると思います。

また、症状の変化は練習を始め、一週間、一ヶ月、3ヶ月、一年と、努力を続けていれば、自分の喉が変化してくることに気が付くことでしょう。
この練習は、努力した時間は必ず結果として応えてくれます。

また、レッスンはいつまで続けるのかという事になりますが、最終的には自分が、自分の声の教師になれることが理想です。

もし、一人で練習していく中で、必要があれば、月に一度くらいレッスンを行えば、間違った方向に練習が進む危険は無いでしょう。

音痴矯正の経験からいくと、一人で練習できるようになるのは、早い人だと半年。少なくとも、1年のレッスンを重ねれば一人での練習ができるようになると考えます。

それと、ここまでメンタル的な問題に触れずにきましたが、一人でいる時には吃音がなく、人前で吃音が出る場合ですが、よく言われるのが一人の時は吃音の症状は出ないのだから発声器官に問題はなく、発声訓練は無意味であるという見解です。一人のときに吃音が出ないという症状だけ切り取ってみれば、そう考えられるかもしれません。しかし、私の社会不安障害の経験から考えると、そう単純なものではないと思います。
例えば、会食不能症の場合一人でいる時は何の問題もなく食事が出来るのに、会食する場合には食事が出来ません。非常に、吃音に似ています。そして、この場合唯一の救いになるのが、薬物療法で食事が喉を通らなくなるシグナルを止めてやることです。その、信号を止めることが出来れば、人前でも食事が可能になります。それでは、やはり、精神的な問題だと思われるでしょうが、しかしそれだけでは済まない問題があるのです。それは、どういうことかというと、お腹の調子が悪ければ、食欲が元々無く食事が取りづらい状況にあるということです。そして、そのことが、会食への恐怖を増大させます。なので、会食不能症は胃弱の人が多いといわれているようですが、普段からおいしくご飯が食べられる状態を作っておくことが重要です。私の場合も、お腹の調子が良いと、ネガティブ思考になりにくいのは確かです。
これを、吃音のメカニズムに置き換えれば、一人でいる時は吃音の症状は出ないが、誰でも苦手な言葉や言いにくい言葉がありますから、それが、吃音の不安を増大させる恐れがあります。そこで、発声練習をして、苦手な母音や単語を克服しておけば、少なくとも苦手な母音や単語を喋る想像からくる不安は軽減させられます。こう考えれば、発声訓練も無意味なものでは無いと考えることが出来ます。いずれにしても、メンタルな部分とハードの部分のうち、体(ハード)は最高の状態であることが望ましいのは言うまでもありません。

それを、踏まえ 吃音改善の手順ですが、まず発声訓練を行い自分の声がどのように出ているのか、自分でよく理解できるようにします。そして、苦手な母音や、単語をスムーズに話せるように訓練しておき、不安を軽減させます。
その後は、社会不安障害と同じで、話すことのメカニズムを理解し苦手な母音や単語も克服し自信がついてきた時点で、認知行動療法の要領で、少しずつ、人と話す経験を積んでいけば良いと思います。
そして、上手くいった経験が増えれば、徐々に今まで避けていた場面にも挑戦しようとする勇気が出てくると思います。

ですからやはり、このケースの場合も、私はまず音源(声帯)の調整、準備が出来ている事が必要不可欠だと考えているのです。

最後に、私が吃音改善のレッスンを行おうと思えるようになったのは、吃音を抱えるたくさんの皆さんから頂いた情報協力。そして、歌声、話し声を改善していった今までの生徒の皆さんのお陰です。

吃音改善したいと考えているみなさん。
一度、3ヶ月を目標に自分の声をコントロールするための努力をしてみませんか。

皆さんの勇気を、無駄にしないよう私も精一杯頑張ります。
人生の悩みを解決するきっかけを作るお手伝いが出来れば幸いです。